皆さま、こんばんは。大麦若葉です。
暑い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。大麦はバテバテですorz
さてさて、今年の5月に大天空物語の番外編小説を書いてくださった方が、
今度はエリーが主役の短編小説を書いて下さいました!
私だけが読むのが勿体ないぐらい素敵な小説なので
こちらに掲載させていただきます。
それでは、どうぞ(〇´3`)b
*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*「チョコレート日和」 作:神戸散歩 様
フラリス北部ーフラリスダンジョンー。
かつて、採掘商人によって開発された鉱山であったが、閉山後はモンスターの巣窟と化しているー。
ドンッ!
背中に感じた衝撃と痛みで呪文の詠唱がとぎれた。
「痛っ…。」
忌々しさをかみしめながら、あたしは振り返った。上位種のフェフェルンが一匹、いつの間にか背後にわいていたようだ。
「全知マジシャンだって一人で出来るんだから」
つぶやきながら回復用のチョコレートを口に運んだ。
全知とは修練のほとんどを知力強化に費やすことで、絶大な魔力を誇る反面、防御や回避など身体能力はかなり低くなる。
新しく湧いた一匹を加えて、現在交戦中は三匹。今売り出し中の天才魔法少女のあたしにとって、切り抜けられない状況ではない。渾身の攻撃魔法で、まず一匹をしとめた。しかし、ホッと息をついたのもつかの間、すぐさま3匹の上位種フェフェルンが湧いて出た。いくらあたしでも、さすがにこれは分が悪い。
「嫌がらせだわ。」
こんな所でもたつきたくはなかったが、死んでしまっては元も子もない。あたしは退却を決意する。冷静な状況判断。これも優秀な魔法使いの必須条件だ。
退くと決めたら、後は走り出すのみ。あたしはスカートをひるがえして走りーー。
「!?」
何で!?足が動かない!あたしは動揺を抑えつつ、懸命に思考を巡らせ始めた。
フェフェルンの絶え間ない攻撃が続き、体力はどんどん削られていく。あたしは回復用チョコレートを続いて口へ放り込んだ。
「まずい!追いつかない!」
あいにく回復アイテムはチョコレートしか持っていなかった。
「こんな事でやられるわけにはいかないのよ!」
あたしはチョコレートを無理矢理、口に押し込んだ。
そうか…フェフェルンには相手の動きを封じる能力があったんだ…。そんな初歩的なことを思い出した時には、既に全身の感覚がなくなり、傾いだ地面が見えていた。
薄れていく意識の中、いつか友達と行った買い物の時の光景が浮かんだ。
『チョコもいいけどサラダや秘薬も持っていった方がいいよぅ。』
…そうね。あなたがくれた秘薬置いてくるんじゃなかったわ…ゴメンね、ムギメ……。あの人は、こんなあたしに何か言ってくれるかな……。
「………。…リー……エリー!」
名前を呼ばれてあたしは目を覚ました。まぶしくて何もみえない。やがてモコモコした影が現れ、輪郭を結んだ。麦芽だ…。見慣れた友の顔がそこにあった。
「エリー…。よかった目を覚まして」
そう言った麦芽はうっすらと涙を浮かべていた。あたしは友の頬を撫でようとしたが、できなかった。全身がしびれたようになって、感覚が全くないのだ。腕とか足とか、そこにあるのかすらわからない。瞬間、麦芽が目をそらしたように思えた。
とにかく死んではいないようだ。あたりまえか。あたしは動く目だけを頼りに辺りの状況を確認する。
麦芽の働く酒場の2階だ。何度も泊まったことがあるから間違いない。と言うことは、あたしは部屋の真ん中に置かれたベットに寝かされている訳か。
もう一度、辺りを見渡す。右の壁にぼろぼろに食いちぎられた服がつるされていた。明るい光に満ちた窓。天井にクモの巣発見。左の壁、廊下へと繋がる扉…。
「!」
扉の横に、正確には扉の横に立つ人物にだが、あたしの目は釘付けになった!マリアベル様が!マリアベル様が、壁にもたれて立っていらっしゃるのだ!
(まさか、あたしを心配して?)
あたしは、その麗しいお姿をまじまじと見つめる。ふわふわでつやつやな髪、白くはりのある肌、整った眉や鼻。そして何より、深い慈愛に満ちた瞳…。
(あの目の端の輝きは!?)
あたしはその光を見逃さなかった。わずかな光だけど、間違いない!あれは涙の跡だ。
マリアベル様がそんなにあたしを心配してくれていたなんて!それだけで、もう胸がいっぱいになった。何だか甘い香りに包まれたような気さえしてくる。この気持ちをどうにか伝えたかったが、口や喉に何か押し込まれてるみたいに麻痺していて、声が出せなかった。
仕方なく、目に力を込めてマリアベル様を見つめていると目があった。あたしは精一杯の笑顔をして見せる。不意にマリアベル様が背を向けた。肩が小刻みに震えている。
急に、苦いものがこみあげてきた。心配してもらえたからって、なにを舞い上がっていたんだあたしは……。せっかくのアドバイスを無視して、敵に突っ込んで、おまけに返り討ちにあって……。
「・・・くっ・・・。」
マリアベル様の押し殺した声が聞こえる。あたしは麦芽を振り返った。麦芽は困ったようにゆっくり首を振った。
『全知マジならおとなしく、前衛職の後ろに隠れるか、相手との距離をとりながら戦うもんだ。真っ先に突っ込んでいくヤツがあるか。』
以前マリアベル様にそういわれたっけ。当然といえば当然だけど、あたしはそれを受け入れられなかった。だって……。
そっと目を閉じる。このまま一生をベットの上で過ごすことになるのだろうか。実感などわかなかった。ただ、妙に落ち着いた気持ちになった。
「くっ……くっ……はっ……」
マリアベル様の嗚咽が聞こえる。嗚咽。むせび泣くこと。でも、よく聞くと、泣き声じゃないような気がしてきた。ところどころ「くっ」に「はっ」が混じってるし……。そう思った直後だった。
「くっ、くっ……あっはっ……あっはっはっはっ」
完全にわらってる?あたしは声の主の方を見た。左手を壁に手をつき、懸命にこらえている。たぶん、笑うのを……。
「ハリアヘルハマ?」
声が出た。
「ぶわははははっ」
あたしの声が呼び水になったみたいに、マリアベル様が盛大に吹き出した。きょとんとするあたしを振り返って、また吹き出す。
「もう、そんな笑ったら可哀相ですよー。」
ベット越しにそう言う麦芽も、十分に笑っているのは見なくても分かった。
状況は理解できないけど、こんなに大笑いするマリアベル様、初めて見たなーなどと、ぼんやり考えていると、扉が開いて中年の女性が入ってきた。手には綿布と桶。桶からは湯気が立ちのぼっている。この酒場のおかみさんだ。
「エリーちゃん、気がついたんだね。」
そう言うと、おかみさんはマリアベル様の方を振り返った。
「あっはっはっは・・・・・・ゲホゲホッ」
あ、むせた。
「あんたも人が悪いねぇ。ずっとこの部屋にいたんなら顔ぐらい拭いておやりよ。」
ほれっと差し出された綿布と桶をマリアベル様が受け取る。
すねた顔がかわいらしいな、なんてちょっと思ってしまった。
おかみさんが出ていった後、2人はまた笑い出した。
わたし笑われてるのかな?そう思ったけど、何故だか嫌な感じはしなかった。相手がこの2人だからだろうか。さっき感じた甘い香りも、いまだにあたしを包んでいる。甘い?あれ?ホントに甘い……。
麻痺して、何か突っ込まれたように感じるのかなと思っていたのだが、ホントに口の中になにか入ってる。もごもご動かすたびに甘さが広がっていく。
あたしはガバッと身を起こした。腕も足もちゃんとある。というより、痛くもなんともない。毛布から手を引き出すと、手のひらに大量の血がこびり付いていた。乾いて黒っぽく変色している。いや、黒というより茶色っぽいな。これも何かおかしい……。甘い香りが鼻孔をくすぐる。おそるおそる鼻を近づけてみると、苦みと甘みの調和した芳醇な薫り。この芳しい薫りは……チョコレート!
あたしは慌ててベットの脇の引き出しから鏡をとりだした。ほおばりすぎたチョコレートのせいでぷっくりとふくれた頬。濃いヒゲをはやしたようにベットリとチョコレートに覆われた口。おまけに両方の鼻から黒ッぽい筋が1本づつ。
あたしは思わず顔を伏せた。耳の先まで熱くなっていく。
「エリーよ…いくら回復用でも…そんなにほおばっては呪文も唱えられまいっ。」
マリアベル様は、笑いすぎて息も絶え絶えだ。
「ファリアヘルはま、ひろい!」
口にまだチョコが残ってた。
「あははははっ。」
今度は麦芽まで一緒になって吹き出した。あたしは口の中のものをごくりと飲み込んでから声を上げた。
「笑い事じゃないです!一晩中、あたしの顔見て笑ってたなんてひどすぎる!」
泣き顔全開で抗議する。対するマリアベル様は全く意に介さずといった様子で、鼻歌交じりに綿布を桶に浸していた。
作戦変更。冷静な状況判断も、以下略!あたしは矛先を麦芽に向けた。目じりの涙を拭いながら、こちらを見ていた麦芽にあたしは牙をむく。
「ムギメもムギメよ!友達が苦しんでるのに、涙が出るほど笑わなくたっていいじゃない!」
ふと頬にぬくもりを感じた。マリアベル様がお湯で絞った綿布で顔を拭いてくれているのだとわかった。
「前にもいったであろう。知能特化型の魔法使いが単独で敵に突っ込んでいってどうする。」
もう、笑ってはいなかった。むしろ、ちょっと怒っているみたいだ。
「ましてやブリンクプールすらおぼえておらんのであろう?」
「マリアベル様だって真っ先に敵に突っ込むじゃないですか!」
自分の言ったことがどれほど身の程知らずで、馬鹿なことかは十分に分かっていた。
でも、憧れの人に少しでも近づきたくて、職こそ違うけど、同じスタイルをとることで少しでもその人に近づけるかも知れない。そんな想いなんて、当の本人は絶対分かってくれないんだろうな。なんて思ったら、つい言ってしまった。
マリアベル様が手を止め、身を起こすのを感じた。
本気で怒らせたかな?ひょっとしたら伝説の右ストレートをこの身で味わうことになるのかな?
うつむいて、じっと次の瞬間をまった。
マリアベル様の腕がスッと伸びてきた。あたしは目を閉じ身をすくめる。怪鳥でも熊でも屠り去るという伝説の右。麦芽、今度こそホントにさよならかも。
でも、予想していた衝撃も痛みもやってこなかった。代わりにカチッという小さな音と耳たぶに感じたわずかな感触。
あたしは、おそるおそる目を開けた。
既に、マリアベル様はベットから離れ、桶の置かれたテーブルの方へ向かっている。少し離れてマリアベル様がいう。
「気休めにすぎんがな・・・。おまえがそうしたいと思うなら、もう止めはしないが、危なくなったらすぐに逃げること。苦くても、回復用の秘薬も持っておくこと。それとな……」
マリアベル様がぽんと、絞った綿布を投げてよこした。
「お前の友達は困ってる人を見て、笑うようなやつなのか?」
なによりもその一言が効いた。麦芽は一体どんな想いであたしを見てくれていたんだろう。いくぶん重たくなった耳たぶに手をやりながら、麦芽を見た。
そこには、いつもと変わらない笑顔があった。
フェフェルンには負けたけど、経験値は減ったけど、そんなことはどうでもよくなったしまった。甘くて少しだけ苦くて、すごっく幸せな感じ。あたしは、まるでチョコレートみたいだなって思ったのだった。
エ)「でもやっぱり、一晩中この顔見てたなんて許せないー。」
ム)「エリー……あなたが運び込まれたのって、ついさっきよ……」
マ)「というか、おまえ一体何回目だ?ここに担ぎ込まれるの?」
エ)「もう、バカバカバカ!」
*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*Ambienteさんのように挿絵を描こうと思ったのですが、
技量が及ばず;小説のイメージを壊すだけになりそうだったので
変わりにイメージイラストを描いてみましたヾ(;´▽`A)

神戸散歩さん、素敵な小説ありがとうございました!